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きょうふのまぼろしへいだんいん
恐怖の幻兵団員
大倉 燁子
「オール読切 二巻五号」1950(昭和25)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,784 字 · 28 页
彼自身も大変苦しそうなのがよくわかります。何を苦しんでいるのかは無論わかりません。ただ一人で煩悶しているのですから、私はたまらなくなって、薫さんにその話をしました。
薫さんも暗い表情をして、
『兄さまは何か悪いことでもしているんじゃないか。かの地にいる間は随分乱暴な真似をしたという人もあるから、殊によったら兄さまは人でも殺しているのかも知れませんね、犯罪の発覚を恐れているんじゃないのかなあ。気の弱い男は自分の犯した罪に脅えて発狂するって話もあるから――』
『まさか、そんな大それたことをする方じゃありませんよ。きっと、何か恐いめにあったんでしょう』
『じゃ、あなたが訊いてみたらいいんだ』
『だって、仰しゃらないんですもの』
『肉親だけですよ。ほんとの同情者は――、打ち開けてさえくれれば、僕は兄さまの苦しみを半分わけて背負って上げるがなあ』
薫さんは相変らず気持ちのいい人でした。私は遂々思い切って、ある晩、一雄に云いました。妻としての資格がないから、何事も打ち開けて下さらないのでしょう。それなら已を得ませんから離縁して頂きますわ、と云って、迫りました。
別れる気なんて毛頭ない夫の心を私はよく知っていたのです。