轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

おんじん

恩人

豊島 与志雄

「帝国文学」1914(大正3)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,268 字 · 27 页

青空文庫

そして手紙はこう結んであった。

突然のことにて御喫驚も有之らんかなれどそれも面白かる可しと存候。此の手紙は今日午前投函する筈なれば、小生の到着前に御手に届くことと存候。自身は今夕夜行にて出発する筈に候。但し本日の夕陽に明日の快晴を思わするものあらばとの条件を附加し候、さらば。

彼の心に不可解なものが醸された。それで幾度もくり返し読んでは、叔父の本意を探らんとした。然し彼の眼に留ったものは以上の文句に過ぎなかった。彼はまた丁寧に手紙を巻き納めて、それから卓を離れてソファアの上に身を投げた。

愛妻を失って憂愁の生活をしている痩せた叔父の姿が彼の頭に映った。それからたえ子を恋した叔父、彼とたえ子との恋を聞いて二人の間を纒めてくれた叔父、間もなく自ら京都に職を求めて去った叔父、好める植物の研究に余暇を捧げて、老婢と佗びしい暮しをしている叔父、――過ぎ去った二年の歳月が、彼の前にそういう別々の叔父の姿を幾つも見せてくれた。遠い絵巻物をでも見るような落ち着いた心地で彼はそれを見た。然し今、書信の往復も間遠になった折のこの突然の来意の手紙が、彼の心に妙な悲壮な気の暗示を与えた。