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あくむ
悪夢
豊島 与志雄
「改造」1923(大正12)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,930 字 · 32 页
」
「そういうことになりますと、世の中のものは何一つ、どんな不用なものでも、少しも毀してはいけないことになりますね。」
「まあそうです。自然と毀れるものは仕方ないが、進んで毀すということは、何についても罪悪です。毀すよりは打捨ててしまう方が本当です。極端に云えば、髯を剃ることだって一の罪悪になるかも知れません。」
「それでもあなたは、二三日おきには髯を剃っていられるじゃありませんか。なぜ長くお伸しなさらないのですか。」
「まだなかなかそこまでの修養は出来ませんね。その代り、僕はこの通り髪を長くもじゃもじゃに伸して、なるべく刈らないようにしています。それに、或る程度までの罪悪は生きる上に仕方ありません。第一物を食うということが罪悪ですからね。まあ、自分のものは自分の勝手に処置して、その代り他人のものには指一本触れない、というくらいの所で妥協するより外はないでしょう。」
「それなら、他人のものに指を触れることが、生きる上に必要だったら、どうでしょう。」
「そんな必要があるものですか。」
「いえ時によるとあるかも知れません。そうしなければどうしても生きてゆけない、といったような気持も……。