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あくむ

悪夢

豊島 与志雄

「改造」1923(大正12)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,930 字 · 32 页

青空文庫

……そんなことを考えながら、而も遠い夢の国のことをでも考えるような風に考えながら、私は益々自分自身や凡てのものが忌々しくなってきた。そして窒息する者が四肢を振り動かすような、そんな風な身振で、通行人の頭を殴りつけるか、街路樹にぶつかってゆくか、何かしら異常な力一杯なことがしてみたくなった。また初ったなと自分でも気付きながら、疾走する自動車を見送っては、活動写真で見た通りに、それを一挙に爆発し粉砕してみたかった。そして恐らく、自分自身が最も爆発したかったのかも知れない。

然し、そのまま何事もなかったら、私はわくわくしながらも、いつしか力無く首垂れて、すごすごと下宿へ帰ってゆき、翌日また出勤するために、おとなしく眠ってしまっただろう。所が……。偶然ほど恐ろしいものはない。偶然の一寸したきっかけで、人の心は右か左か方向を変えてしまうことがある。私の知ってる或る男は、柿を取るために大きな柿の木の頂に登って、落ちると危いなと思いながら、両手で枝にしっかとつかまった拍子に、熟した柿が一つぽたりと落ちたのを、ちらりと見た瞬間に気が変って、両手を離してしまったので、その高い所から転げ落ちて、足を挫いたことがある。