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かなしめるこころ

悲しめる心

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,423 字 · 33 页

青空文庫

激しく疲れたと云えば云えるし気の抜けた様なと云えばそうも云える。

極度の亢奮の後に来る不思議に沈んだ気持が私の体のどこかにやがて命も取って仕舞いそうな大穴をあけた様に感じてさえ居た。

今来るか――今来るか、悲しい黒装束の使者を涙ながらに待ちうけるその刻々の私の心の悲しさ――情なさ、肉親の妹の死は私にどれほどの悲しみを教えて呉れた事だろう。

よしそれが私の身に取って必ず受けなければならない尊い教えであったとしても、一時も一息吐く間も後かれと希って居たのに、――けれ共後かれ早かれ一度は来なければならない事が只時を早めて来たと云うばかりであろう。

死を司る神に取っては、我が妹の死が十年早くとも又よしおそくとも何の差も感じないに違いない。

それに涙が有ろうが有るまいが死の司は只冷然とそのとぎすました鎌で生の力と争いつつ片はじからなぎ立てるのみが彼の仕事で又楽しい事なのであろう。

到々私は呼ばれた。

引きたてられる罪人の様に苦しく苦しく見たくもなくて見ずには居られないものに向って進んだ。

私がその部屋の入口に立った時、美くしい友禅の影はなくて檜の白木香り高い裡に静かに親属の手によって納められ、身の囲りにはみどりの茶が入れられて居た。