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かなしめるこころ
悲しめる心
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,423 字 · 33 页
下を向いてどこかになげつけたい様な気持で元の席に戻った。
なんど来ても結てやらなかった髪は今私がいかほど心を入れてといてやったところで一つの微笑さえ報いて呉れないではないか。
欲しいと云ってもやらなかった人形をやらなかった事を思ってせめられる私の今の心よ、只一言、私の名を呼んで呉れたらすべての苦しみは忘られ様ものを。
幾多の人に供えられる玉串はうず高くつまれて式は終った。一つ一つ涙を誘う祭詞の響は今も尚私の胸に残って居る。
二親と同胞に囲まれて柩は門を出た。
私はせめてもの心やりにそれに手を持ちそえて美くしい塗の私のたった一人の妹を送るにふさわしい柩車に乗せた。
私達もすぐ後の馬車に乗った。
静々と車はきしり出す。声もなく、うなだれて見送人達の心よ。
見えがくれする金金具の車の裡に妹が居ると思えば不思議な淋しさと安らかな気持が渦巻き返る。
雨の裡を行く私の妹の柩。
たった一人立ちどまって頭を下げて呉れた人のあったのがどれほど私の胸に有難く感ぜられた事だろう。
ぬかるみの道を妹の柩について、私は世界のはてまで行くのでは有るまいかと思った。
長くもあり又短かくもある道を青山についた時時間はまだかなり早かった。