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ひがんについて

悲願に就て

坂口 安吾

――「文芸」の作品批評に関聯して――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,329 字 · 17 页

青空文庫

いわばそれがこの作者のいう悲願であろう。そうして、この作品はいわばそののっぴきならぬ生の懊悩が、つまりは悲願とよぶところのものがこれを生み、この作品の方向を決定づけているのだろうと思われる。この作者の懊悩は私に共感できるものだった。

いったいがこの漠然とした悲願、直接に何を祈り何を求めるという当てさえもない絶体絶命の孤独感のごときものだが、これは数十世紀の人間精神史と我々の真実の姿とのあらゆる馴れあいと葛藤を経て、虚妄と真実とがともにその真正の姿を没し去ってしまったところから誕生したものであろうか。自らの実体を掴もうとして真実の光の方へ向おうとすれば真実はもはや向いた方には見当らなくなっていたというような、或いは逆に向き直ったところの自らが、向き直ったときには虚妄の自らに化していたというような、即ちこの悲劇的な精神文化の嫡男が悲願の正体であろうと思う。それ自体を分析しても割りきれる代物ではない。そこには虚妄と真実との全てのカラクリがつくされていて、分析のメス自体がこのカラクリの魔手の中にあるからである。この漠然とした哀愁は畢竟するにその漠然とした形のまま死か生かの分岐点まで押しつめ突きつめて行くよりほかに仕方がない悲しさなのだ。