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あいか

愛か

李 光洙

「白金学報 第一九号」1909(明治42)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,381 字 · 11 页

青空文庫

ああ彼は今明日の試験準備に余念ないのであろう。彼は吾が今ここに立っているということは夢想しないのであろう。彼と吾とただ二重の壁に隔たれて万里の外の思をするのである。ああどうしよう、せっかくの望も喜も春の雪と消え失せてしまった。ああこのままここを辞せねばならぬのか。彼の胸には失望と苦痛とが沸き立った。仕方なく彼は踵を返して忍足でここを退った。

井戸端に出ると汗はダラダラと全身に流れて小倉の上服はさも水に浸したようである。彼はホット溜息を洩らすと夏の夜風は軽く赤熱せる彼が顔を甞めた。彼の足は進まなかった。彼は今度は裏から廻ってみたが、やはり雨戸は閉って、ランプの光が微かに闇を漏れるのみであった。モウ最後である。彼の手頼は尽きたのである。彼は決心したらしく傍目も振らずにズンズンと歩き出した。彼は表門を出て坂を下りかけてみたが、先刻は何の苦もなくスラスラと登って来た坂が今度は大分下り難い。彼は二三度踉めいた。半許下りかけたが、彼は何と思ってかハタと立ち止った。行きたくないからである。何か好い方法を考えたからである。前なる通の電柱の先に淋しく瞬いている赤い電燈は、夏の夜の静けさを増すのであった。