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あいのごとく

愛のごとく

山川 方夫

山川方夫『愛のごとく』。同一底本的分册已合并为一书。收入:愛のごとく、演技の果て、その一年。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 103,908 字 · 210 页

青空文庫

な、なんてったって朗らかで、わりかた質が良かった」

「じゃ、あそこの米軍は?」訊いたのは荻村だった。

小林が答えた。「出征しちまったってよ、ぜんぶ。いまじゃ白ちゃんは教官だけだ。友達の話じゃ」

だまって香を絶やさないようにしていた兄とつれだち、信二は一番電車で大森の家に帰った。電車にはまだ明りが灯っていた。

「女たちは、どうしているだろうね」

「さあ、……ついて行くやつも多いらしいね、小倉や福岡では、間借り代がピンとはねあがったってさ」兄は水いろに明けて行く空をみていた。虧けた月が空の中ほどにあって、色の浅くなった東の空の涯で、美しい淡い紅と青が、煙突の立ちならぶ地平から離れようとしていた。

「おれ、バンドをやめようかとも思うよ」と兄はいった。「どうも、おれはあの商売に向いてないような気がする」

「……そうかもわからないね」信二は、だが兄や安達やのことを思っていたのではなかった。「黒の女」は、けっして彼の内部からはなれていたのではなかった。

そのころ彼のみつけていたアルバイトは、家庭教師と週一度のメッセンジャー・ボーイだった。会社の試作品や重要な書類などを、大阪や京都やの支社とか本社などに、直接汽車にゆられて運んで行く。