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よく

慾

豊島 与志雄

「改造」1932(昭和7)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,324 字 · 33 页

青空文庫

大きな銀杏の並樹が聳えて、黄色い葉に蔽われている。その葉が突風にもぎとられて、無数に乱舞する。地面も空中も一面に、真黄色な渦巻だ。そして四五時間のうちに、銀杏の並樹は蒼空の下で半ば裸になってしまった。あんな風にするんだ。羽衣をつけたマネキンガールをあらゆる人が驚異の眼で見上げる。とその乙女の手から、銀杏の葉の形をした五色のビラが、無数に降ってくる。それを拾ってみない者は、馬鹿か偽君子だ。すばらしい広告的効果がある。街路樹が黄色い葉を撒き散らしてよいとすれば、天女が五色のビラを撒き散らしたとしても、警視庁で文句のつけようはあるまい。人体では気球に重すぎるとするなら、軽いロボットを考案すればよい。このロボットの考案者は、素敵な金が儲かる。そんなことを僕は考えていたのだ。それを邪魔した声の方を振向くと、張子のような顔が真正面にこちらを向いている。色素が余って血液が足りないような類の色だ。丹念に鋏で刈りこまれたらしい口髭が、鼻の下に逆立っている。一体髭にしろ髪にしろ、先端が細くしなやかでなければ毛としての優雅さは持ち得ないものだが、大抵の口髭は先端も根本も同じ太さで、ぶつりと断ち切られている。