轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
よく
慾
豊島 与志雄
「改造」1932(昭和7)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,324 字 · 33 页
それもつまらないものではいやだ。すばらしい真珠か、小さくとも質のよいダイヤかだ。その指輪のケースをひそかに懐にしのばしていって、何気なく彼女の前に差出すのだ。彼女はあけてみてびっくりする。うわずって片方少し斜視の眼が、キリストを見上げるマリアのような眼付になる。白粉やけのした蒼白い頬に曙の色がさす。そして静に指輪を僕の方に押し戻して、こんなことをして頂いてはわるいと云う。あなたのお家の事情もよく分っている、こんな無駄なことをなさるより、お母さんを何か喜ばしてあげなすった方がよい、あたしはもうお志だけで充分だ、とそんなことをしみじみと云う。それを僕は無理に受取らせる。そしてしまいに、二人とも口を噤んで涙ぐむ……。
甘ったるいのは当然だ。僕はある女に――芸妓に――惚れこんでいた、或は恋をしていた。芸妓に惚れるなどは、ブールジョアのすることらしいが、こればかりは理屈ではいかない。独身者の生理的必要を満すには、いくらも安価な方法がある。然し方法を超越したところに、恋愛の存在理由がある。僕は色慾と食慾とを同一だと考えている。生理的必要からくる色慾以外に恋愛が存在するのは、生理的必要からくる食慾以外に調味法が存在すると同様だ。