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つきもの
憑きもの
豊島 与志雄
「改造文芸」1949(昭和24)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,983 字 · 27 页
酒の前にノルモザンをのみますかと言う。私にノルモザンの用意があることを、知っているのだ。そうなると、少なからず不気味である。何でも知っているのだ。爪切り鋏を持ってることも知っている。髭剃りのあとにつけるクリームを持たないことも知っている。文庫本を二冊持ってることも知っている。トランプを一組持ってることも知っている。ヒロポンとアドルムと両方とも持ってることも知っている。私の鞄の中を開けて見た筈はないのに、すべて見通しだ。何にも見ていないような殆んど無表情なその眼眸の前に、私はただもう縮こまってしまった。
彼女の方が女主人公で、私はその従僕みたいだ。
宿の女中までが、私には何にも尋ねず、秋子の指図をあおぐのである。秋子はてきぱきとすべてを処理する。これはうまいとかまずいとか、料理品のことまで私に教える。朝はビールを二本にして、昼食はぬきにすると、裁断を下してしまう。
いったい、これはどういうことだろうかと、畏敬の念で私は彼女を見上げた。前髪の方は少しく縮らし、後ろを思いきりアップに取りあげて、襟足をくっきりと見せ、はでなお召の着物に伊達巻の姿で、膝をくずし加減に坐ってるところは、婀娜っぽい冷たさがあった。