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つきもの

憑きもの

豊島 与志雄

「改造文芸」1949(昭和24)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,983 字 · 27 页

青空文庫

だが、それもすぐに消えて、私はぞくぞく体が震える。寂寥だけが残る。

私は立ち上り、足を早めて宿に帰った。

「どこに行っていらしたの。」

秋子はその眼をひたと私に据える。いつまでも離さない。

お膳が出ていた。酒も出ていた。酒をぐいぐい三四杯のんで、私は自分でも突然の思いで言った。

「浅間に登ってみようか。」

秋子はなにか腑に落ちないらしく、黙っている。

「登ろうよ。」

「大丈夫でしょうか。」

「なにが?」

「あなた、お登りなすったことがありますの。」

「あるよ。」

「ほんとですか。」

「ほんとだとも。噴火口がどうなってるか、はっきり説明出来るよ。」

「そんなら、登りましょう。」

一度そうきめると、彼女はすぐにも登りたがった。

山の上方は、火山岩に火山灰だ。靴では厄介なのである。秋子は宿のお上さんに頼んで、古足袋を二つ、私のと彼女のとを手に入れてき、紐つきの草履を、履き替えの分まで用意した。

登山は夜間にするのが定法とされている。噴火口の底のぐらぐら沸き立ってる赤熱の熔岩のさまが、昼間はよく分らず、夜明け前の闇中ではよく見えるのである。その上、日の出の美観も楽しめるのである。