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つきもの

憑きもの

豊島 与志雄

「改造文芸」1949(昭和24)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,983 字 · 27 页

青空文庫

毎日のように登山客があった。峯の茶屋まで自動車で行く人があったので、私達もそれに便乗させて貰った。それから先は、他の人々をやり過して、二人でゆっくり登った。私はズボンの裾を折り上げて、靴下の上に古足袋をはき、秋子はスカートの裾を気にしながら、ストッキングの上に古足袋をはき、どちらも草履を紐でゆわえている。滑稽な身なりだ。

登山路は急だが、ゆっくり歩けば難儀はない。林間を過ぎ、灌木地帯を過ぎると、所々に草むらがあるだけの不毛の地だ。はっきりした路はないが、ただ一つの峯で、真直に登ってゆけばよい。時々立ち止って休む。地鳴りのような響きが遠くかすかに聞えてくると、意外に早く、頂上に出る。

仄かに夜が明けかかっていた。中天は既に明るいが、地上にはまだ薄闇が漂っていて、火口壁のあちこちに、粗らな人影が影絵のように見える。火口の縁に辿りつくと、硫黄の匂いと大きな轟きとに包まれる。

深く大きくえぐれた端正な噴火口である。底の一部に、ぐらぐら沸き立ってる赤熱があって、そこから噴煙が立ち昇り、渦巻く気流に従って、噴煙は火口一杯に立ち籠め、或はすーっと一方の火口壁から流れ出す。