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わがじんせいかん

我が人生観

坂口 安吾

08 (八)安吾風流譚

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,617 字 · 23 页

青空文庫

さて、その板を裏返しにして、又、左書きに、仙の倉平標を書いた。板を同じ方向のまま裏返しにすれば字が上下逆さまになるから、上下逆さまにならないように裏返して、左書きに書いた。ところが、上下逆さまにならない代りに、今度は左右逆さまになることを彼は気がつかなかった。つまり表を左書きにしたから、裏は右書きにしなければ、表裏同じ方向を指さないのだが、彼はそこまで気がつかずに、上下逆さまにならないことにだけ注意して、どっちも左書きにしてしまったのである。その結果、次のような道標ができたのである。

道標の図

即ち、表と裏は矢印の方向に全く逆を指し合っているのである。道標を立てる位置をまちがえたというのは当らない。この道標は、天下のどこへ立てても完全に通用しない。なぜなら、表裏アベコベを指しているからだ。もとより、法師温泉の主人に悪意のあろう筈はない。彼は、両面上下をそろえて左書きの結果が、アベコベを指し合うことを気付かなかったのであろう。

この怖ろしい事実が判明したとき、私はふと、私の義兄である村山紅邨という、越後山中の造り酒屋の主人公の歌人のことを考えた。彼はその山中に六百年ほど代のつづいた旧家の主人で、雑学の大家でもある。