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われにそむく
我に叛く
宮本 百合子
「太陽」1921(大正10)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,414 字 · 59 页
が、彼方側から、凝っと自分を見守っている小さい者たちの瞳が、云い難い苦しさを与えた。彼等は、母の語調から、何かただならぬ気勢(けはい)を感じたのだ。そして驚きと知りたさとで、箸を持っている手を止め、眼を瞠(みは)って、姉の素振りに注目しているのである。
「そうか、必要なら帰って来るだろう、まあいいさ」
訳が分ると、父は淡白に葡萄酒の杯を挙げた。けれども、弟妹、とくにみよ子は、決してそうさっぱりとはすませてくれなかった。
姉の云うことに耳を欹(そばだ)てていた彼女は、やがて母と姉とを等分に見ながら、疑しそうに、
「ゆきちゃま、帰るの?」
と質問した。そして、傍から、ゆき子が何と云う間もなく、
「ああ、お帰りになるのよ」
と母の返答を受けると、いきなり貫くような大声で、
「ゆきちゃま帰っちゃいやあ」と叫んだ。そして、箸も何も持ったまま姉の傍に馳けつけて、半分体を凭(よ)りかからせながら、手をぐいぐい引張って、「帰らないのよう、よ、ゆきちゃま帰らないのよ」と、強請み始めた。
半分、母の顔色を眺めているような妹の態度から、ゆき子は、純粋に、その引止めを嬉しく感じ得なかった。