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われにそむく

我に叛く

宮本 百合子

「太陽」1921(大正10)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,414 字 · 59 页

青空文庫

はああやって先達のように、激しい熱情でそれを示す。けれども、自分はその全部を正鵠を得た直覚または観察として、受けられただろうか?」

ゆき子は、正直に「否」と云わずにはいられなかった。世の中に母の愛ほど、その母の中でも自分の愛ほど深大な且つ純粋なものはないという位の強い信念の下に立った寿賀子の或る場合は、却って激情そのものの息苦しさほか感じさせない。――「それがどうして、自分の感情にも起らないことだといえるだろう!」結婚後、俄に自分のうちに育ち始めた所謂「女らしさ」可愛いとか、優しいとか、または上品だとか、種々な形と言葉とで現わされる、手応えのない妙に焦点を外に結ぶ女性の肉感性。それ等に彼女は疑い深い眼を向けずにはいられなくなった。

寝床に入ると、真木は優しく、

「気分はいいかね」

と傍のゆき子に声をかけた。

「え、有難う、大丈夫よ」

「――よくおやすみ」

真木は自分の場所から手を延して、静にゆき子の頭をたたいた。けれども、彼女は、いつものように、それを倍にして戻す気分にはなれなかった。

「――おやすみ遊ばせ」

ゆき子は、何か、心の中に、今日一日で嘗てない新しい一つの道がついたような心確かさで、良人の静かな輪郭(プロフィル)を眺めた。