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あるさっかのやくび

或る作家の厄日

豊島 与志雄

「群像」1949(昭和24)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,284 字 · 21 页

青空文庫

「ローマは一日にして成らず。」

「災厄は一日にして成らず。」と声が言う。

「ローマは一日にして成らず。」とおれが言う。

「災厄は一日にして成らず。」

「ローマは一日にして成らず。」

「災厄は一日にして成らず。」

おれはもう返事をせず、相手にならないことにした。すると、あとはもうめちゃくちゃだ。

「ばか、ばか、ばか。……恥さらし。……くたばっちまえ。……まだ酔わないか。……飲め、飲め、くたばるまで飲め。」

あの仏像が、口を利いてるらしい。おれは突然、全く意外に、瞬間的な突然さで、かっと腹が立った。唇をかんで、あたりを見ると、アスパラガスの缶詰、梨、チーズ、香味料の壜、いろんな物があり、鶏卵が鉢に盛ってある。卵の黄身をやたらにすするのは、彼女の唯一の悪趣味だ。夫の武彦が教え込んだに相違ない。

「ばか野郎。」

おれは卵を掴んで、仏像に投げつけてやった。卵は壁にあたって砕け散った。また投げた。命中しない。また投げた。命中しない。めちゃくちゃに投げた。仏像も怒って、おれを睥みつける。おれは笑い出したが、憤怒は笑いと共に高まる。一升壜をひっ掴んで、つめ寄ってゆき、仏像の頭上に叩きつけてやった。