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「あるおんな」についてのノート
「或る女」についてのノート
宮本 百合子
「文芸」1936(昭和11)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,281 字 · 13 页
葉子は最後に、倉知と自分とはお互に零落させ合うような愛し方をしたが、それもなつかしい、と云っている。作者もそれ以外には何も云っていない。恐らくこの蔭に有島武郎という人の情緒の感傷的な性格が潜んでいたのであろう。作者自身がそれによって最後を終った恋愛も、激しく震撼的ではあったであろうが、本質的にはある零落と呼び得る方向へ向って行く性質を帯びたものであった。しかし、当事者はそう思わず、主観的な歓喜と平安とを主張して終ったのであった。
「或る女」の第二章はその部分だけを取扱って十分一つの長篇を描き得るものである。この部分の価値を若し作者が十分理解して少くとも前篇を構成していたら、「或る女」は一つの古典として読まれるに堪えるものになったであろう。
葉子が自分の乳母のところで育てさしている娘定子に執着し、愛している情は筆をつくして描かれている。葉子の優しい心、女らしさ、母らしさの美を作者はここで描こうとしている。
定子を見ていると、その父であった木部に対して恋心めいたものさえ甦える場面は、ある種の読者を魅するであろうが、真にある男を愛し、やがてそれを憎悪したという痛烈な経験をもっている女の読者がその部分を読んだとしたら、果して共感を胸に感じるであろうか。