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「あるおんな」についてのノート
「或る女」についてのノート
宮本 百合子
「文芸」1936(昭和11)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,281 字 · 13 页
作者としてそれを支持している。しかし、ではどのような新しい道が葉子のためにあったろうか。葉子の時代はその新しかるべき道が女のために未だはっきりとは示されていなかった。キリスト教の文化から背を向ければ、芸術的気質のない葉子には、擡頭しようとする日本の資本主義の社会、その社会のモラル、いわゆる腕が利く、利かぬの目安で人物を評価する俗的見解の道しか見えなかったことは推察される。
作者は一九一七年に再びこの作に手を入れている。そして婦人に対して作者は道徳よりも道理を重んずることを求めている。このときに到っても、やはり葉子の中にあって彼女を一層混乱させ、非条理に陥らせている封建的な道徳感への屈伏を作者は抉り出すことに成功してはいないのである。
葉子の恋愛の描写の中に感銘を与えられることがもう一つある。それは作者が、恋愛というものに、消極的な性質を帯びたものと、積極的なものとあり、ある人の一生の時期の微妙な潮のさしひき、社会と個人との結合の関係などによって、恋愛のそれぞれの性質が発端において何れかに決せられると共に、発展の過程で恐ろしい作用を生活の上に及ぼすものだという事実を、無邪気に或は溺情的に見落している点である。