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あるおんなのしゅき
或る女の手記
豊島 与志雄
「婦人倶楽部」1920(大正9)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,447 字 · 37 页
その晩、兄さんと義姉さんと私と三人は、炬燵のまわりに集って、兄さんから仔細のことを聞かされた。
――兄さんが玄関に出て行かれると、其処に彼が立っていたそうである。兄さんは喫驚されたが、用があるなら云ってほしいと云われた。それでも彼は黙って立っていた。仕方がないので彼を客間へ通した。彼は案内されるまま客間へ通った。そして其処で、彼は凡てをうち明けた。彼は一昨年の秋から私に恋していたのだった。けれども僧侶の身分なので、心のうちでどんなにか煩悶したそうである。或時は自殺の決心までしたとか。それでもなお思いきれないので、遂に私の父に心のうちを訴えるつもりで、今日私の後をつけて来たのであった。彼は今日まで、私の住所も名前も知らなかったそうである(そうすると、以前のことはやはり私の幻覚だったのだ! けれど私にはそればかりだとは信じられない。)彼の話を聞いて、兄さんは懇々と説諭を加えられた。そして、「あなたも修業がつみ立派な名僧となられたら、妹を差上げないものでもないが……。」と云われると、彼はわっと声を立てて泣き出してしまった。いつまでもいつまでも泣き止まなかった。