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あるおんなのしゅき

或る女の手記

豊島 与志雄

「婦人倶楽部」1920(大正9)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,447 字 · 37 页

青空文庫

死を覚悟していた私は、そのまま年末を通り越して、十九のお正月を迎えた。私はほっと安心した。そのせいか、彼の幻影に悩まされることは少くなった。少しずつ元気になっていった。

けれども、私の運命は永久に彼から解き放されることは出来ない! そう私は信じた。そして一人諦めていた。

所が正月の八日に、……ああ私は感謝の言葉を知らない! 兄さんが初めからの詳しいことを、お寺の和尚さんとあの年若いお坊さんとに話して、お坊さんに私を妻としてくれないかと相談せられたそうだ。するとお坊さんは、私を心から愛すると誓って下すったそうだ。それを八日に、私は兄さんから聞かせられた。

私は泣いた。終日泣いた。後から後から涙が出て来た。なぜ泣くかって兄さんに叱られたけれど、どうして泣かずに居られよう!

私はすぐ、あのお坊さんに宛てて、今や私の愛する人に宛てて、この手記を書きかけた。けれどももう書けなくなった……。