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あるひ

或る日

宮本 百合子

「愛国婦人」1925(大正14)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,119 字 · 21 页

青空文庫

千代が、さしずをされずに拵えるものは、何でもない、彼女自身の大好物な味噌おじや丈だとわかったとき、さほ子は、良人の寝台の上に突伏し声を殺して笑い抜いた。

千代は、美しい眉をひそめながらぴんと小指を反せて鍋を動し、驚くほどのおじやを煮た。そして、行儀よく坐り、真面目な面持ちで鮮やかに其等を皆食べて仕舞うのであった。

「仕様がないじゃあないか、あれでは」

到頭、彼が言葉に出した。

「置けまい?」

「――だけれど、もう三十日よ」

さほ子は、良人の顔を見た。彼は目を逸し、当惑らしく耳の裏をかいた。

「けれども。――駄目なものなら早く片をつけた方がいいよ。いつ迄斯うしていたって」

隅の椅子から、彼女は怨むように云った。

「――貴方仰云って頂戴。始めからの責任があるんだから」

「出ろって?」

さほ子は合点をした。

「僕じゃあ角立つよ。お前が云った方がいい、正直に訳を云って。――已を得ないじゃあないか」

「……」

さほ子は、夜の部屋の中をぶらぶら彼方此方に歩き出した。彼は不安げな眼でそのあとをつけた。

「私、出て行けって云うのは辛いわ。ましてあの人は、やっといる処が出来たって喜んでいるんですもの」