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あるあきのむらさきしきぶ
或る秋の紫式部
岡本 かの子
「むらさき」1935(昭和10)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,007 字 · 11 页
ほんとに我儘をさせて頂いて申訳ございません。(手をついて礼をして)お蔭さまで気がせいせい致しましてございます」
式部(筆を持ったまま)「なにも、そう一々、鹿爪らしく御叩頭には及ばないよ。御殿で勤め中と違って、私宅で休暇中なのだから、まだ外に、したい事は何なりと思いつくままにするがよろしいよ」
老侍女「有難うございます、いえもう、自由にはとっくにさせて頂いておりまして、この上、そうそうは余り勿体のうございます」
(妙な美男、上手より登場、急いで、在るか無きかの築地垣の陰に屈み込む)
式部「あれ、誰か、そこに人が来たようだね」
老侍女「そうでございますか、わたくしは一向気が付きませんでございましたが、どれどれ」(縁へ伸び上りあたりを見廻す。妙な美男、ちょっと屈み上り、老侍女に手招きをする)
老侍女「なるほど、どなたか、いらっしゃるようでございますねえ。あの、どなたでございます」
式部(つと立上り)「こんな様子を人に見られるのは嫌じゃ。わたしは隠れてしまうから、お前、よく用心しといてくれ」(式部、几帳の陰に隠れる)
老侍女「はいはい承知いたしました。それがおよろしゅうございましょう。