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あるそびょう
或る素描
豊島 与志雄
「新潮」1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,802 字 · 24 页
興味がなくなるとさっぱりしたもので、懐中の淋しい折なんか、折角手に入れた画集を持ち出して、古本屋へ売り払うのだった。
「ひどい奴等だ、買った時の半分値にしか引取ろうとしない。」
そう云って憤慨しながらも、彼はその半分値で払い渡していた。
例を挙ぐれば、まだいくらでもあるが、兎に角長谷部はそういう風に、転々と興味を移していった。そして一度一つのものに興味を持ち出すと、暫くの間はそれにすっかり溺れてしまうのだった。何故にそうなるのかは、誰にも分らなかった。その上自分の職務には決して興味を持ったことがなく、会社員としてもまたは学校教師としても、一番の不忠実な懶け者であったし、それかって、何か他にまとまった勉強をするのでもなかったし、云わば、精神的にも物質的にも真面目な生活から離れた、第二義的な娯楽にばかり耽って、時間を空費してるに過ぎなかった。
「あれで、女道楽でも初めたら困るね。」と友人達は云い合った。
が幸にも、長谷部はその方へは踏み出さなかった。独身者としては品行は上等の方だった。
彼は人の肉体について、妙な見方をすることがあった。
或る晩、彼は一人の友人と往来で出逢った。