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あるそびょう
或る素描
豊島 与志雄
「新潮」1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,802 字 · 24 页
」
そして彼等親子は、晴々とした眼付で微笑み合っていた。それから、そのままの笑顔で、私に向って云うのだった。
「思い立ったら、まるでもう赤ん坊のようでございましてね……。」
「いや、余り長く待たして済まなかったね。」
「なあに……。」
とただそれだけで、私は苦笑するより外、何と答えていいか分らなかった。彼が庭の中で夢中に土いじりをしている、病中の母親が寝ながらその方を眺めている、それが彼等二人にとっては何であるかを、私は初めて瞥見したような気がして、先刻の自分のおせっかいを苦々しく思い出した。
然し実は長谷部にとっては、母親のことなんかはどうでもよかったのかも知れない。他の場合には、全く母親のことなんか頭にないらしく、自分の出来心に夢中になっていた。
彼は何かしら一つのことに耽らずにはいられないらしかった。私が彼を知ってからも、彼は撞球に耽ったし、碁に耽ったし、テニスに耽った。郊外のテニスコートに、毎日のように通ったことがあった。そのための服装を拵えたり、ラケットを三本も買い込んだりした。そしてそういう金は、みな母親の乏しい小遣から融通された。彼は月給といっても僅かしか貰ってはいなかったし、財産があるわけでもなかった。