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あるりょうにんのざんぱい
或良人の惨敗
佐々木 邦
「面白倶楽部」1926(大正15)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,067 字 · 15 页
「人間なら猿かも知れませんわ」
とやった。無論、現在人間なら先祖は猿かも知れないという意味で、進化論を認めたのである。
「人間ならと言うと人間じゃないとも思えるのかい?」
と鳥居氏は又咎めた。いつもは斯うしつこくないのだが、主人公、今日は特に気を廻す理由がある。
夫人はこゝで笑っても未だ晩くはなかった。しかし少し料簡がある上に、女中が手を休めて傾聴しているので、行きがかり上止むを得ない。主婦には主婦の見識がある。
「何の気なしに申したことをそんなに仰有らなくても宜うございましょう? あなたは余っ程変な人ね」
と夫人は乳飲み子を抱き直して、良人をキッと見据えた。折から、
「電報!」
という声が玄関から響いた。惣領が早速取次いだ。鳥居氏は電文を一読して膝の上へ置いた。
「兄さんからですか?」
と夫人は覗くようにして訊いた。主人公は答弁の限りでないというような仏頂面をして又電文に眺め入った。鳥居氏の家系が猿から出たか何うかという討論は差当り延期になった。
「僕にも見せて下さい」
と長男はお父さんがやがて食卓の上に置いた電報を手にした。電報のことは近頃学校で習ったばかりだったから、実物に接するのは一種の学問である。