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せんそうろん

戦争論

坂口 安吾

「人間喜劇 第一一号」イヴニングスター社、1948(昭和23)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,716 字 · 22 页

青空文庫

共産主義社会も、今ある日本の社会形態よりも、ましな形態であるのは分りきっている。然し、それを、いきなり実現しようとするのはムリだ。人類の善意と相互扶助による政府や役人のいらない社会などが、我々の理想社会として、最良のものであるのは分りきったことである。しかし、人間のすべてが賢人聖者となる以外に、かゝる理想の実現される筈もなく、又、すべての人間が、賢人聖者となりうる日が、ありうるか、どうかは、疑わしい。然し、かゝる最高の理想に向って、各時代の善意と努力をつくし、ムリをさけて、少しずつ、少しずつ、向上の歩みを怠らぬことは、政治に於て、最も望ましいことである。

いわんや、革命とか、戦争などということは、一時的に、甚大な犠牲を強要するものである。

私は、先に、戦争も、非情なる歴史的立場からは、むしろ効能の方が大きかった、と述べた。然し、これは、学者の研究室内に於ける真理であって、政治に於ては、真理ではない。なぜなら、政治は、歴史的な人間一般に属するものではなく、現実の五十年しか生きられない、非歴史的な生命や生活とのみ交渉しているものだからだ。真理や理想というものと、政治は、本来違っている。