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げさくしゃ
戯作者
国枝 史郎
「サンデー毎日」1925(大正14)年4月1日春季特別号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,218 字 · 21 页
これに気を得て続々と馬琴は諸作を発表したが、折しも京伝は転化期にあり、他に目星しい競争者もなく、文字通り彼の一人舞台であり、かつは名文家で精力絶倫、第一人者と成ったのは理の当然と云うべきであろう。
しかし間もなく競争者は意外の方面から現われた。
十返舎一九、式亭三馬が、滑稽物をひっさげて、戯作界へ現われたのは馬琴にとっては容易ならない競争相手といってよかろう。
物を云う据風呂桶
それはある年の大晦日、しかも夕暮のことであったが、新しい草双紙の腹案をあれかこれかと考えながら、雑踏の深川の大通りを一人馬琴は歩いていた。
と、ボンと衝突った。
「ああ痛!」と思わず叫び俯向いていた顔をひょいと上げると、据風呂桶がニョッキリと眼の前に立っているではないか。
「えい箆棒、気を付けろい!」
桶の中から人の声がする。
「桶を冠っているからにゃ、眼のみえねえのは解り切っていらあ。何でえ盲目に衝突たりやがって。ええ気をつけろい気をつけろい!」
莫迦に威勢のよい捲き舌で桶の中の男は罵詈ったが、馬琴にはその声に聞き覚えがあった。それに白昼の大晦日に、深川の通りを風呂桶を冠って横行闊歩する人間は、あの男以外には無いはずである。