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てがみ

手紙

久生 十蘭

「小説と読物」1949(昭和24)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,158 字 · 30 页

青空文庫

私どもはミミカを出てから六十二日目に、バンクス島の灯台を見て、トレース海峡へ入りました。木曜島をすぎれば、間もなく濠洲クィーンスランドの北端へ舟をつけることができるのであります。

「あれがバンクス島の灯台です」といいますと、村上さんは寝て空を見たまま、

「そうか、うれしいな!」といって眼をつぶりました。

喜んでもらいたいと思ったのに、海の上をメグリメグル灯台のあかりさえ見ようともしないので、私は落胆いたしました。いま思いますと、そのときはもう村上さんは、起きたいとしても、身体を起こすことが出来なかったのでした。

夜が明け、ラタリーの最初の島が波の上に見えてきました。

「ああ、ラタリーだ」と櫂を休めて眺めていますと、村上さんが、

「おい、へんなものがやってくる」と指で沖をさしました。

私にとっても、めずらしいことがはじまりました。薄黒い、銀色に光る高い土堤のようなものが、白い泡をふきながら、二町ほどの幅でおしよせてくる。サウシテその上に、何千羽とも知れない鴎の群が、飛び降りまた空へ飛びあがって騒ぐので、空の太陽も暗くなり、その声で耳がツンボになりそうでした。