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てがみ

手紙

久生 十蘭

「小説と読物」1949(昭和24)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,158 字 · 30 页

青空文庫

その音は長くつづき、夜明けまできこえ、サウシテひどいスコールが来ました。雨の中でも機関銃の音がきこえていました。

間もなく、ラハの飛行場を日本軍がとったといい、ハロンでも戦争がはじまりました。日本の飛行機がたくさん来て、軍艦からも、どんどん大砲をうちました。私の家はオランダ軍が火をつけて焼いたので、トレホの海岸へ逃げました。

私は母と妹とすこしばかりの家財を刳舟に積んで、ブル島のナムレヤへ連れて行き、私一人、アンボンへ帰ってきました。私は濠洲のブルームやトレース海峡や木曜島で日本人といっしょに暮し、いくらか日本語がわかりますので、日本軍の通訳になってかせぎたいと思ったのであります。しばらくすると、郡役所で通訳の試験があるというので、十人ばかりの人といっしょに行きました。村上さんが試験官で試験をされましたが、みな落第でした。なぜかといえば、私どもアンボン人よりも、村上さんのアンボイナ語のほうが上手で、ミナカンボー語もブル語も、チモール語も、スンダ語も、みなよく知っていられたからです。

私どもは、村上さんの日本語学校で勉強することになりましたが、村上さんは熱心におしえてくれましたが、やがて誰も来ないようになり、しまいには、私だけになりました。