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てふうきん

手風琴

小川 未明

「民政」1933(昭和8)年9月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 2,957 字 · 6 页

青空文庫

「あのとき、このくまのいがあったら、たすからないともかぎらなかった。」

じいさんは、男が残していった、紙に包んだくまのいをおしいただいて、帯の間にしまいました。坂に、一本の山桜があって、枝が垂れてじいさんの頭の上にまで伸びていました。

今年の葉は、もう散って、枝は裸になっていたけれど、葉の落ちたあとには、来年咲く花のつぼみが、堅く見えていました。じいさんは、それを見ると、花が咲くまでに、すさまじいあらしと雪の時節を経なければならないのだ。しかし、この若木は、無事にそれをしのいで、いくたびも春を迎えて、麗しい花を開くであろう、が、こう年をとった私は、はたして、もう一度、その花が見れるだろうかと思ったのでした。しかし、良薬をもらって、その考えが変わりました。じいさんは、にこにことして、急に仕事をするのに張り合いができたのでした。

「変わった薬屋さんだ。信心するので、神さまが薬をおめぐみくだされたのかもしれない。」

じいさんは、まだどこかに手風琴の音がきこえるような気がして、耳をすましていました。