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だきみょうがのせつ
抱茗荷の説
山本 禾太郎
「ぷろふいる」1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,330 字 · 34 页
母の話をするとき、祖母の目に涙の光っていることが少くなかった。そんなに気にいった嫁であったのに祖母は母の素姓を少しも知らなかったらしい。どういう事情で父のところに縁づいてきたのか、それさえ君子は聞いたことがなかった。
祖母の話によると、君子の生まれるまでの母は精神というものを前の世に忘れてきた人のように、従順ではあったが、阿呆のようにも見えたそうな。しかし、それでありながら洞穴のような空虚な身内のどこかに、青白い蛍火のような光が感じられ、気味のわるいところもあったという。不思議なことには、手紙のきたことは一度もないのに母は毎月欠かさず手紙を書き、二里もある町の郵便箱まで自ら入れに行ったそうな。祖母は嫁の素姓が気がかりでもあり、手紙になにが書いてあるのか、ながい間気をつけていたが、内容を知る機会は容易にこなかった。ただ一度、ほんの十行足らずの書きつぶしを発見したことがあったそうで、そこには気味のわるい呪いのことばが書き連らねてあったという。その文言がどんなものであったか、君子は祖母から聞いたようには思うが、今ではなにも思い出すことができない。
こうした変質の人らしかった母が、君子を産んでからまるで人が変わったように円満で温和な人になった。