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おしえとたびするおとこ
押絵と旅する男
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1929(昭和4)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,416 字 · 35 页
当今の電車と違って、次の車に乗ってあとをつけるという訳には行きません。何しろ車台が少のござんすからね。私は仕方がないので母親に貰ったお小遣いをふんぱつして、人力車に乗りました。人力車だって、少し威勢のいい挽子なれば馬車鉄道を見失わない様に、あとをつけるなんぞ、訳なかったものでございますよ。
兄が馬車鉄道を降りると、私も人力車を降りて、又テクテクと跡をつける。そうして、行きついた所が、なんと浅草の観音様じゃございませんか。兄は仲店から、お堂の前を素通りして、お堂裏の見世物小屋の間を、人波をかき分ける様にしてさっき申上げた十二階の前まで来ますと、石の門を這入って、お金を払って「凌雲閣」という額の上った入口から、塔の中へ姿を消したじゃあございませんか。まさか兄がこんな所へ、毎日毎日通っていようとは、夢にも存じませんので、私はあきれてしまいましたよ。子供心にね、私はその時まだ二十にもなってませんでしたので、兄はこの十二階の化物に魅入られたんじゃないかなんて、変なことを考えたものですよ。
私は十二階へは、父親につれられて、一度昇った切りで、その後行ったことがありませんので、何だか気味が悪い様に思いましたが、兄が昇って行くものですから、仕方がないので、私も、一階位おくれて、あの薄暗い石の段々を昇って行きました。