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おしえのきせき
押絵の奇蹟
夢野 久作
「新青年」1929(昭和4)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,749 字 · 114 页
彦九郎の書いた忠の字とかいうものと一緒に並んでいるのでしたが、そんな絵や字を見まわしておりますと、お父様は私を、まだ生れないうちから男の児ときめておいでになったらしいことが、よくわかるので御座いました。
それから、いよいよ私が生れる時が近づきますと、前に申しましたオセキ婆さんが泊り込みでお台所の板の間に床を取って寝ました。この婆さんは、私が五つか六つの頃まで生きておりましたが、大変に元気者の慾張り婆さんで、お父様はあまりお好きにならなかったそうですが、十人近くも子供を生んだ経験がありましたので、この時ばかりはお父様は何も仰言らずにお母様の介抱をお許しになったそうです。今でもよくおぼえております。眼の玉のギョロギョロする、肥った色の黒い女で、お母様のお話が出るたんびに、
「私が育てたんじゃもの……ナア御隠居さん」
と云っては大きな口を開いて男のように笑うのでしたが、その頃の婆さんには珍らしくオハグロをつけていなかった事をよくおぼえています。人の噂によりますと柳町(遊廓)に奉公をしていたこともあるそうですが、その婆さんがやって来まして、お母様のお腹を一ト目見ますと、