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おしえのきせき
押絵の奇蹟
夢野 久作
「新青年」1929(昭和4)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,749 字 · 114 页
お二人とも私を喰べてしまいたいほど可愛がっておいでになりましたので、私が弾くたんびにお褒めになっては、いろいろなお菓子を御褒美に下さるのでした。
「コヤツ(福岡の人は吾が児のことをよくこんなに申します)は俺のお祖母様の血すじを引いとるらしい。今にあの阿古屋のように琴が上手になるじゃろう。弾く手つきまでがあの押絵の通りじゃ」
とお父様がよく仰有いました。
けれども不思議なことに、お父様のそのような事を仰有るたんびに、お母様は、はかばかしく御返事をなさいませんでした。只「エエ」とか「ハア」とか弱々しい返事をなすって、あの淋しいような悲しいような微笑をなされながら、針や絵筆を動かしておいでになるのでした。時々は眼の中に涙を溜めておいでになる事さえありました。
けれどもお父様はそんな事を一度もお気付きになりませんでしたようです。ただ私だけがとっくに気が付いておりまして、子供心にいつかはお母様にお尋ねしてみようみようと思いながらツイそのままになってしまいました。
そのうちに私は十二歳の春を迎えました。お父様が三十八で、お母様が二十九におなりになりましたが、このころはもう余程うちの都合がよくなっておりましたらしく、お父様は家の処々を修繕なすったり、犬や猫が畠を荒らさぬように家のまわりの生垣を取り払って、その頃流行り初め