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しどうものがたり

指導物語

上田 広

或る国鉄機関士の述懐

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,687 字 · 35 页

青空文庫

そこがまた兵隊さんの魅力となる所以でもあろう。

佐川二等兵は次第に熱心になって来た。加減弁の把手を握る腕も、めっきり上達するようであり、機関士席に据えた腰にも僅かなことに動じない落ちつきが見え出す。蒸気の使いかたもなかなか巧みになり、絶汽運転の利用も線路を覚えると同時に適当になって来た。ただひとつはかばかしい進歩を見せないのは、自分の運転している列車速度の認定である。走行中に不意に背後から、今何粁か、と訊ねても容易に答えられない。暫くは線路の砂利の色や、遠景の動くさまに見入ってしまう。間の抜けた頃にようやく口にする数字には、実際の速度との間に相当のひらきが見られるのである。これには何度繰り返しても目に立つほどの変りかたが現れなかった。彼自身も口惜しいのか時に私の質問の間隙を窺い、反対に彼の方から聞いてきたりする。私が思った通りを云ってやれば、正直にまた首をかしげて考え込む。予想が外れるのだ。私はひとつの仕業に何度も頬摺り合わせるようにしては外を指し、それ今が二十粁、三十二粁、まだまだ三十二粁、これでやっと三十五粁だと云う具合に実施指導を行う。彼はうんうんと首肯いてばかりいる。