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ゆびわ

指環

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1925(大正14)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,453 字 · 5 页

青空文庫

「馬鹿な事を云ってはいけない。そりゃ人違いだろう。何なら私の身体を検べて見るがいい」なんて、一寸あれ丈けの落着いた台詞は云えないもんですよ。

B おだてるもんじゃありません。

A 車掌なんてものは、ああした事に慣れていると見えて、中々抜目なく検査しましたっけね。貴婦人の旦那という男も、うるさくあなたの身体をおもちゃにしたじゃありませんか。でも、あんなに厳重に検べても、とうとう品物は出ませんでしたね、みんなのあやまり様たらありませんでした。ほんとに痛快でした。

B 疑いがはれても、乗客が皆、妙な目附で私の方を見るのには閉口しました。

A 併し、不思議ですね。とうとうあの指環は出て来なかったというじゃありませんか。どうも、不思議ですね。

B …………

A …………

B ハハハハハハ。オイ、いい加減にしらばくれっこは止そうじゃねえか。この通り誰も聞いているものはいやしねえ。いつまでも、左様然らばでもあるまいじゃないか。

A フン、ではやっぱりそうだったのかね。

B お前も中々隅へは置けないよ。あの時、俺がソッと窓から投げ出した蜜柑のことを一言も云わないで、見当をつけて置いて、後から拾いに出掛けるなんざあ、どうして、玄人だよ。