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りゃくだつせられたるおとこ

掠奪せられたる男

豊島 与志雄

「新潮 第二十九卷第三號」新潮社、1918(大正7)年9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,398 字 · 48 页

青空文庫

という簡単な語の意味のうちに、籠っていた。

山田は妙に瞑想的な気持に浸っていった。一方に、乞食を通じて見た人生の暗い姿が眼の前に浮んで来た。他方に、秀子を通じて感じた透徹した眼が心のうちに浮んできた。その二つが或は離れ、或はもつれて、混沌たる靄を遠くに展開さした。

「丸っきり同じね。」と秀子は云った。

「え?」

山田は秀子の言葉の意味が分らなかった。そしてその顔を見返すと、彼女は揶揄するような微笑を眼の中に浮べていた。

「分って? え、分らないの?」

そう云って此度は、彼女は媚びるようなしなをしながら、首を傾げてみせた。白い耳朶が彼女の細りした頸の上に、山田の心を唆った。山田は急に顔を外らした。

「あらどうしたの、怒って?」

「一体何のことです。」と山田は荒々しく尋ねた。

「ほんとに性急な赤ちゃんね。今教えてあげますからおとなしくしているんですよ。」

山田はもう反抗するだけの力もなく、ただ黙って赤ん坊のように首肯いた。

すると急に秀子は真面目な顔に返った。嬌艶な色がその眼から消えて、重々しい真面目くさった輝きに変った。

「あなたが貸して下すったトルストイ小話ね。