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りゃくだつせられたるおとこ

掠奪せられたる男

豊島 与志雄

「新潮 第二十九卷第三號」新潮社、1918(大正7)年9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,398 字 · 48 页

青空文庫

そしてその後で父は失敗してしまったので、どうにもすることが出来なかったわ。許婚の人も居たんだけれど、寄りつきもしなくなったわ。あなた許婚なんてこと嫌いだわね。私も嫌いよ。で、けっきょくその方がよかったわ。それから種々な惨めな目を見て来たわ。一日御飯を頂かないことなんかもあってよ。それから……こんな身になるまでには、それは話しきれないほど種々なことがあったわ。あなた小説にお書きなさらない。それなら話してあげるわ。ただ話したってつまらないもの。」

彼女はもういつのまにか茶化したような調子になっていた。然し山田は執拗に質問を続けた。

「あの年取った女の人が時々来るではありませんか。あの人は?」

四十位の足の短いでっぷり肥った女が、秀子の家に訪ねて来るのを山田は二三度見かけたことがあった。身体の不恰好なわりに、いつも茄子紺の紗の羽織なんかを着込んで、両手の指に大きい金の指輪を光らしていた。

「あ、あの人、あれは私の知った人よ。」そう云いかけて彼女は妙な薄ら笑いをした。「でもあなた一体どうなさるの、そんなことを聞いて。丸で身許調でもなすってるようだわ。それとも……私と結婚でもなさるおつもり? そうね、あなたに結婚でも申込まれたら、私、……どうしましょうかね。