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りゃくだつせられたるおとこ
掠奪せられたる男
豊島 与志雄
「新潮 第二十九卷第三號」新潮社、1918(大正7)年9月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,398 字 · 48 页
「おい姐さん! 勿体ねえことをするんじゃねえや。犬よりも人間の方がよっぽど腹が空いてるんだ。」
秀子は呆気にとられて、その方を見返した。
角刈の男は立ち上った。そして二人の男が止めるのもきかずに、ビールのコップを高くさし上げた。
「やあこれは失敬、あはは、こちとらは酔っ払ってるんだ。姐さんと云ったなあ悪かった。勘弁してくんなせえ。で改めて、……えーと、奥さん! 犬のために祝盃を上げるんだ。人間は腹が空いても大丈夫だ。犬の野郎は浅ましいもんだ。わんわん吠えやがる。奥さん、勿体ねえが、なに構うこたあねえ、もっとやっておくんなせえ。わしらだって助けてやりまさあ。憚りながら五十銭もする米の飯を食っているんだ!」
「よせよ。よしなったら!」と一人の男が彼をしいてまた椅子に坐らした。
然し此度は秀子の方で口を開いた。彼女は一種の強猛な眼を光らしながら、口元には微笑を湛えていた。
「ほんとにいい景気ですわね、あなた方は。もう二三本私が麦酒を奢ってあげましょうよ。」
「そいつは有難え。」と角刈の男は云った。「実は………ええと、奥さん、この上ねえ不景気なんだ。こいつらがしみったれたことを云うもんで、なお胃袋が淋しくっていけねえ。