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りゃくだつせられたるおとこ

掠奪せられたる男

豊島 与志雄

「新潮 第二十九卷第三號」新潮社、1918(大正7)年9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,398 字 · 48 页

青空文庫

おい姐さん萬歳………や奥さん萬歳をやるんだ。立たねえか。」

そう云って彼は立ちかけたが、また椅子の上によろめいてしまった。

そのうちに女中が麦酒を二本彼等の卓子の上に持って来た。すると一人の男が煙草に火をつけながら低く囁いた。

「人を犬と同じにしてやがる!」

その間に秀子は皿のコール・ビーフをそっくり床にあけてしまった。小犬は尾を振りながら舐めまわした。

「犬だって人間だって同じですわ。」と秀子は落ち着き払って答えた。「私なんか家の猫と一緒に寝るんですもの。」

「そうだ!」と角刈の男は立ち上った。「犬も猫も人間も同じだ。奥さんはさすがうめえことを云う。わしらだって、なあに、今に野良犬と一緒に寝て見せますぜ。女が無けりゃあ野良犬と寝るんだ。男が無けりゃあ猫と寝るんだ。奥さん万歳!――おい何を愚図愚図してるんだ。麦酒をつがねえか。」そう云って彼は女中を怒鳴りつけた。

その間に秀子は勘定をすまして、山田をつれてふいと外に飛び出した。

「おほほ、面白い人ね。女が無ければ野良犬と寝るし、男が無ければ猫と寝るんだって。」

そして彼女はヒステリックに笑い出した。然し山田が驚いて見返った時には、彼女はもういつもの晴れやかな顔に返っていた。