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ばんしゅうへいや
播州平野
宮本 百合子
「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页
ほんとに、重吉はいつ帰れるだろうか。
この十四年ほどの間に、日本の治安維持法は、ナチスの予防拘禁所のシステムまで輸入して、息つくすきも与えないものとなって来た。狭い日本に張りつめたこの重石は、先頃発表されたポツダム会議の決定によれば、直ちにとりのぞかれ、粉砕されるべきものとして示されている。支配者たちは、自分たちのこんな敗北さえも、野良や工場に働く人々には、すぐのみこめないような云いまわしであらわした。そこには、何処かで、出来る丈握っている繩の端を手離すまいと腐心している陰険さがうかがわれるのであった。治安維持法を、どういうやりかたで、どんな範囲で、彼等は処理しようとするのだろうか。
ひろ子の書く手を止めるのは、この点について、経験した者でなくては想像しにくい程の苦しい不安と警戒とであった。一言、うれしい、という率直な表現をもつことさえも、重吉への手紙の中では安心できなかった。妻であるひろ子の、打ちひろげすぎた感情が、生きるために最小限の条件を確保するためにさえ、根づよく闘わなければならない重吉の体に、見えないところでてきめんな意地わるい仕打ちとして返されて行くようなことがあってはならない。