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ばんしゅうへいや
播州平野
宮本 百合子
「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页
「おお縫子はん。水がさっきからおごりよりますで」
その声でむっくり、母とつや子がおき上った。
「どれ、ほんに、まあ、せんないこといのう」
つや子は、来合わせてくれた沢田の主人と息子にたのんで、一旦高いところへうつした衣裳箱を、今度は二階へあげて貰いはじめた。息も入れず、木の衣裳箱、次にトランク、それから行李、箪笥の引出しと、あげさせる。
その手をあけさせないさしずの間に素早く、
「えろうすみませんが、ちょいと置かしてつかアせ」
と沢田の家の深く大きい壺もかき上げられた。それには麦、米、粉が入れられていた。上げられる箱やトランクを部屋のぐるりに置きながらひろ子は食糧が気になった。こうして着物ばかり保護しているが、食糧はどうなのだろう。東京で空襲があった間、市民が真先に心配し、守ったのは食糧であった。ひろ子が知っている範囲では石田の家の米味噌のおき場は前座の床であった。水が床をこせば、それらはもう安全でない。気づきが唇まで出かかった。が、ひろ子はそれをのみこんで、つや子が容赦なく指図して上げさせる衣類箱を、次から次へうけとっては積んだ。田舎では、食糧の心配がないのかもしれない。