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ばんしゅうへいや

播州平野

宮本 百合子

「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页

青空文庫

何とかなるものなのだろう。つや子が、嫁入りのときこしらえて来た衣類、直次の着ていたもの、子供らのための用意、それを濡すまいとする心理は皆にとっても自然なのだろう。

箱をあげはじめて十分も経ったとき、益々水嵩がまして来て、階下は大騒動になった。

「それ! おごうはん、お上りませ、こけよりますで!」

水の中へ倒れたガラスのこわれる音がした。タバコの空棚が浮き出して、ひっくりかえった。

「どうなろうかいの!」

怒って絶望した母の声がした。こちらで箪笥が浮き出した。

階段の上り端にさし出した裸ローソクの揺れる光が、つい目の下まで来ている水面を照らし出した。

「ハアここまでついちょる!」

濡れた裸体を照らされながら、沢田の主人が、血相のかわった眼元でひろ子を見上げた。その股のつけ根までが水の中にあった。

水に追いあげられる鼠のように、次々と二人の男たちも二階へあがって来た。

「こりゃ早う避難せまあじゃ、家がこけよる」

「そんなこともなかろうけれど……」

上から何か大きいものが流れて来たら、この家はもつまい。土台がいかにもわるい作りであるから。

二人の子のねている布団の裾を濡れた土足のままふんで、七人の男女がまちまちの背たけでそこにつったった。