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ばんしゅうへいや

播州平野

宮本 百合子

「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页

青空文庫

これまでは、水無瀬川が氾濫して周囲の麦畑を水につけることはあっても、少し高みにある人家にさわりはなかった。今度は、西よりの川床が溢れるか溢れない時に、新道にせかれ、一時にどっとそこを越す奥山からの出水が、東からも全部落を洗い、水漬りにしたのであった。

その新道の上に、石田の家では家じゅうの畳をもち出して干した。古びて貧しげな仏壇も崩れかけたまま持ち出された。杙をうちこみ、綱をはり、そこへ濡れしょぼれたものをかけた。

部落じゅうが湯気を立てていたべた土の臭いを立てた。その日炊出しがされ、溺死した鶏が煮られた。

登代は、昔からの顔なじみの広さと信用とで、翌日から大工をたのみ、男を数人よび集めた。登代らしい着実さで、先ず必要な便所から修繕がはじめられた。毎日、新道の上に畳が運び出され、綱に物が干され、その間に床下が清潔に洗われ、床板が洗われ、墜ちた壁土がかきのけられて、左官がよばれた。しげのや縫子が、左官屋の女房と一緒に手伝いに働いた。

ひろ子からみれば、これらすべての手配はおどろくべき迅速さであった。母のきっぱりしたやりかたでこれらは進捗している。登代は、治郎をおぶって、重吉たちの子守をしてくれた婆さんの孫のところへ、守りをたのみに自分で行った。