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ばんしゅうへいや

播州平野

宮本 百合子

「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页

青空文庫

「――田原へはおいきませんの?」

「どうしたのさ、つやちゃん。そんなにせっつかなくたっていいのに――。お母さんに伺わなくちゃきめられないわ、そうでしょう?」

ひろ子は、まだところどころしか床板のはられていない階下へ下りて行った。戸棚の前で母に相談した。

「おいきませ、おいきませ。却ってそれがよろしうあります。ああいう気分の者じゃけ、ほん、いけんのう」

縫子とつれ立って出がけに、つや子は台所の土間にいた。

「じゃ、行って参ります」

こちらの廊下からひろ子が大きく声をかけたが、つや子は横顔を見せたまま返事をしなかった。

十二

何となし足早に小一丁ほど歩いて、段々ひろ子の気分は諧謔的になって来た。しまいに笑い出し、足どりも緩やかになって、ひろ子はユーモラスに、

「ああ、おどろいた」

と云った。

「二個の南瓜、裏道へ蹴出さる、と云う工合ね」

ひきしめられていた神経の反動という笑いかたで、縫子も歩きながらときどき立ちどまって笑った。

「駄目よ、縫子、やめなさい。そんな笑いかたすると、体がぐにゃぐにゃして、頭痛がすることよ」

二人は、部落にとってすべての悲しみと災害との象徴である軍用新道を歩いて行った。