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ばんしゅうへいや

播州平野

宮本 百合子

「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页

青空文庫

さわ子が若さとともにもっている雰囲気には、ひろ子にとって必要な、精神の音楽のようなその諧音がきこえた。さわ子に感じるその調和は、従兄である重吉のもっている精神の諧音に似てもいる。

ひろ子は、久しぶりに集注して数冊のアメリカの小説をよみ、そのノートをこしらえた。数年来、日本には、外国作品についてさえ、批評らしい批評は存在し得なかったのであった。

ひろ子が、中庭ごしの室で、例の机に向いそろそろ五時かと思うころ、

「ただいま!」

いかにもいそいで帰って来たというさわ子の声が、台所の土間の方で聞えた。

「お姉さんは?」

「おってじゃ」

叔母が、おかしそうに答えている。

「どこへ、行かりょういの」

「ああ、よかった」

しばらくして、ふだん着にきかえ、ふだん着では女教師というよりもゆったり大柄な娘らしいさわ子が、

「ただいま!」

机のわきに膝をついた。

「御苦労さま。――どうだった?」

すると、さわ子は、きもちよい栗色の顔をふり仰げ、

「ふ――」

と鼻声を立てて、淡白さと甘えを一緒に笑った。

「そんな工合なの? じゃまあお目出度う」

さわ子の受持学級は、五年生であった。福島の田舎で国民学校に通っている伸一が五年生である。