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ばんしゅうへいや

播州平野

宮本 百合子

「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页

青空文庫

またそこには、一人の女としてひろ子が体にからめて運んでいる面倒な事情も、おのずから影響していると思えた。

実の弟の家へ逗留しているというだけなのに、町の特高は、同じ頃そこへ用向で訪ねて来た客たちの関係までを、訊きただした。駐在は親切で、お客があるときも、その名と年とを書き出してくれさえすれば、すぐ応急米を渡すから、と小枝に云った。小枝はよろこんでそのとおりにした。特高が来て、どうして知っているかと思うようなつまらない名をいうとき、それはみんな、米とつながる姓名なのであった。どうでしょう! 小枝は、眉をもち上げて首をすくめた。

それらのあれこれに拘らず、ひろ子は網走へゆこうとしているのだった。

封筒につかう糊をとりに立ってゆくと、茶の間に、きき馴れない男の声がした。もう大分酔いのまわった高声で、

「はア、どうも、こういう超非常時ででもねえと、思い切ってこちらさアは来にくくてね」

行雄が、それに対して、おだやかに応答している。

「何しろ、もうこうなっちゃあ、酒でも飲むほッか、手はねえです。馬鹿馬鹿しいちゃ、話にもなんねえ。いかがです一杯――わしらの酒でも、はあ満更馬鹿にしたもんじゃない、純綿でやすって――ね、旦那、一杯。