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ばんしゅうへいや
播州平野
宮本 百合子
「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页
「こんなにいろいろ書いてあるけれど、今の東京はまるで違っちょろうと思うの。どの辺がのこっているのか、よう分らんのよ。子供らに、もう本当のこと教えなければ、すまんと思うの」
福島にいる伸一が、丁度休業中の宿題にそこを出されていた。ひろ子は、地図を出して一九四五年のその夏、現実に在った東京を説明してやった。さわ子が、赤い麻の服を着て、姉の縫子につれられて、子供らしくむく犬のついたブックエンドを伊東屋で買って貰った頃、東京は、たしかに読本にかかれているような東京であったのだ。
大阪からの新聞がやっと配達されるようになった。呉線まわりで運ばれた。山陽線は不通のままで、特にひろ子にとって困ったことは、広島までが山崩れ、トンネル崩壊でふさがっていることであった。
「困っちゃった。いつになったら三次に行けるのかしら――私、あきらめちゃいないのよ」
「まあ、いそがんことでありますよ」
叔母が慰めた。
「たまには、ゆうにおしませ。いつ来ても、三日と泊っておられんじゃったもの。ゆうにおしませ」
「あっちで、かまわないかしら」
母のことが気にかかるのであった。田原の生活がしっくり感じられれば感じられるほど、ひろ子は、母もこちらに来させて、ぽってり柔かい掌でつかれた腰をなでられるような思いをさせたかった。